『私の第三ラボに来てほしいわ。事前にシャワーも浴びてね。ヨロシク。レモン・ブロウニング』

 女からこんなメールが来たら、大体の男は踊って喜ぶであろう。それも、この送り主の女は相当な美女だ。性格や思想に難はあるが。

 だが、その呼出先が――柔らかいベッドでなく、固い実験室でさえなかったら。
 端末を手にアクセル・アルマーは嘆息した。

   *

「ああ来てくれた来てくれた! 待ってたのよ~」
「言われたとおりに水浴びもしてきたが、ここで職場ックスでも始めようと」

 紫色の妖艶な衣服をいつも着ている彼女はくすくすと笑いながらコンソールパネルを操作する。

「ソレはまた別の機会にね」

 重々しい機械音と共に現れたのは、レモンに負けないくらい――アクセルに言わせればレモンのが遥かに上等な女だが――のスタイルの爆乳女だ。これの正体をアクセルは知っている。レモンが心血を注ぎ研究する人造人間、Wナンバー。その最新ナンバーは『最高傑作』に仕上げてみせると何度も語られた。

「この子の仕上がりを確認してほしいのよ」
「戦闘訓練ならもっと適当な相手はいくらでもいると思うが?」
「ご謙遜を。ああ、役不足ってことかしら。これまでの十六のナンバーたちもあなたに勝てなかったのよね。でもそれなら、シャワーは終わってから浴びたらいい話よ」

 運動で汗を流してからの水浴びは最高の二文字だが、事前の水浴びを要する行為というのはさほど種類は多くない。

「拗ねないで、私が認める最高の男だからこそ頼むのよ。ね?」
「仕事だと割り切ればいいんだろう」

 戦闘服を脱ぎ捨てるとバランスのいい筋骨で構成された男の体が晒される。今でもレモンと恋人関係であるが、こんな閉じた世界でなかったらもっと有象無象の女が寄ってきていたことだろう。それをいちいち突き返すのも面倒だから最高の女と結局見せつけるような交際をしていた気もする。そんな平和な世界で自分たちが出会えていたか、という前提問題はさておいて。

 だが今回の相手はこのレモンでなく、非常識な裸体のまま現れた緑髪の爆乳人造人間だった。
 レモンの言葉を真似るのならばこれから常識を教えてやる――というところか。

「レモン様、こちらはアクセル・アルマー特殊処理班隊長で間違いないでしょうか」
「よく勉強してあるわね。あなたに女の常識を教えてもらいに呼んだの」
「さっさと始めないか」
「あらぁ、せっかちな男は嫌われるのよ? うふふ、私の娘みたいなものなんだから可愛がってちょうだい」

 これからレモンの指示のもとでセックスする男女とは思えない、互いに目をみないで間にいるレモンを通してやりとりをする。

 緑髪の女――W17と伝達するときは教師、あるいは母親のように。
 赤髪の男――アクセルと話すときは恋人、あるいは同僚よして。

(レモンの頼みだから抱いてやるが、これが済んだら任務での付き合いすら御免したいな。あとで言ってやる)

 絶対に仲良しこよしになれない確信を初対面で抱く。

 この二人が『あちらの世界』の戦場で対峙することになるのはもう少し先のお話……。