ある春の日の放課後、教室に佇む一組の男女の影。女の方が男に向けて切り出す。

「ツナさん。今日…ハルに付き合ってほしいです」

そう言われた男の方は戸惑いを含んだ声で返した。

「なんだよハル…。付き合うってどこに?」

今までこの女、ハルに「付き合ってほしい」と言われ、一緒に出かけたことは何度もあった。だからこそ今回も同じようなものだろうと思い、特に深い考えもなくそう答えた。映画か、カラオケか、ショッピングか…。そんなことを思っていたツナの予想に反し、ハルは真剣な眼差しを向けて言った。

「ハルの家です。…伝えたいことがあるんです」

沢田綱吉、通称ツナ。彼が三浦ハルと出会ったのは、二人が中学生の時。あるきっかけで知り合った彼らだったが、その後友達としての関係は中学時代、そして同じ高校に進学してからも変わらなかった。
ハルは中学時代からツナに好意を寄せており、ツナ自身もそのことはよく知っている。ツナにも中学時代に好きな人がいたため、ハルの想いには応えられず今日に至っている。
と言っても今でも昔の恋を引きずっているわけではない。相手と違う高校に進んでからは徐々に思い出すことも少なくなり、一年の一学期終わり際にはなんとも思わなくなっていた。
「あれだけ一途に想っていた相手だったのに…」と不思議に思うのと同時に、このままでいいのかと悩むようにもなった。こんな自分に対し、ハルは今でも変わらず好意と親しみを向けてくれている。今までは好きな人がいるという理由のもと、彼女の想いに向き合うのを先延ばしにしてきたが、かつての恋心も消え去った今、いい加減けじめをつけなければならない、そう思っているところだったのだ。
そんなタイミングでハルから「大事な話がある」と告げられれば、動揺するのは自然なことだろう。一体何を言われるのか…。優柔不断な自分に今度こそ嫌気がさしたのではないか…。そんな考えを抱きながら、通い慣れたハルの自宅への道のりを歩くツナ。重い足を引きずるように玄関前に立ち、インターフォンを鳴らす。
数秒後にドアを開けて出迎えてくれたハルはいつもと変わらない笑顔を見せてきた。

「いらっしゃいツナさん。今日は両親とも仕事でいないんです。どうぞ、上がってください」

勧められるままに家に上がり、通されるままにリビングのソファーに腰掛けた。もう何度も訪れているハルの家だが、さっきまで考えていたこともあって今日はやけに緊張する。