私、西住まほは今、人生で最大と言っていいほどの正念場を迎えていた。と言っても私自身はそうは思っていない。目の前の課題を乗り越えるのが困難だと思っているわけではないが、仮に乗り越えられなかったとしても、正直さしたる影響はないだろうと思っている。だからこそ、そんな私の考え正反対の態度をとる母、西住しほに困惑しているのだ。
きっかけは母の一言だった。

「まほ…。あなたに縁談が来ています。相手は我が西住家と肩を並べるほどの名家の御曹司。確実にこの縁談をまとめ、西住流の未来と繁栄を勝ち取りなさい」

私の家は戦車道の家元として有名だ。私自身もその家の長女として、今日までその名に恥じない振る舞いをしてきたつもりだ。だがこういう場面では流石に辟易してしまう。まだ学生の私に縁談とは…。しかも話を聞く限り完全な政略結婚ではないか。名家ともなれば、要人とのコネクション作りも必要なのかもしれないが、いくらなんでもやりすぎと言うものだろう…。
内心呆れる私に構わず、母は更に驚くべき一言を口にした。

「あなたには明日から、相手方のご子息と同棲してもらいます。寝食を共にし、より良い関係を築いた上で結婚まで進みなさい」

これを聞いた時は一言言ってやろうと思ったが、こういう時の母は人の話など聞かない。おそらく抵抗したところで無駄だろう。まぁ同棲だけして、後から理由をつけて断ったとしても、実家にとって大した事態にはならないだろう。私が卒業と同時に自活でもすればいいだけのことだ。
そんな思惑を抱き私は翌日、同棲を行うという家へと向かった。二人で住むには手に余るような家だったが、その玄関にはすでに男物の靴が一束揃えてあった。どうやら相手は既にお待ちかねらしい。
一体どんなおじさんが待っているのか…。そんな予想を抱きつつ玄関で靴を揃え、リビングの戸を開けた私が見た意外なもの。それはほとんど私と同い年、いや年下にさえ見えるオドオドとした少年の姿だった。その少年は物音に気づき、私と目が合うとパッと目を輝かせて言った。

「はっ、初めましてまほさんっ!会えてすごく嬉しいでふっ!」

最後の部分で彼が噛んだことを私は聞き逃さなかった。予想を大きく裏切られ、私は思わず彼に聞いてしまう。

「えっと…まさか、私の縁談の相手というのは君のことなのか…?」

そんなはずないという私の予想は、またしてもあっさりと打ち砕かれた。

「はいっ!父さんが僕に『この人と結婚しなさい』ってまほさんの写真を見せてくれて。それですごく綺麗な人だなって思って!だから、こうして会えてすごく嬉しいですっ!」