「聡ー。いつまで支度してんだー?そろそろ行くぞー」

田井中律は準備に手間取る弟の聡に向けて言った。休みの日に一緒に買い物に行こうと言い出したのは律の方だったが、それにしたって待たせすぎではないか?そんなことを思っていると、間延びした聡の声が届いた。

「ごめーん姉ちゃん。もう終わるー。もう終わるからー」
「ったく…先外出てるぞー」

いい加減痺れを切らし玄関の外で待つことにした律は、家の外に踏み出し何気無く開いた郵便受けの中に目を留めることになった。いつも見かけるチラシに混じって、小さな可愛らしい便箋が投函されていたのだ。取り出して見てみると宛名は『田井中律様』、自分に向けた物らしい。

「何だこれ…?私宛の手紙?誰がこんなもん…?」

心に湧いた疑問の言葉にしつつ、律はその場で便箋を開いて中身を確認する。そこに書かれていたのは彼女が予想もしていなかったものだった。

『突然こんな手紙を出してごめんなさい。初めて律さんを見た時から、すごく綺麗な人だと思ってました。今では一日中律さんのことを考えてしまいます。長くなってしまいそうなので単刀直入に書きます。僕は律さんが好きです。良かったら色々お話しして見たいです。』

これは世間で言うラブレターなるもののようだが、それを見た律がまず思ったのは『ああ、またか…』ということだった。
別に常日頃からこういう手紙をもらい慣れているわけではないが、過去にも一度似たような手紙をもらったことがあったのだ。しかし後になってその手紙は、幼馴染の澪が作詞した曲を律に見てもらおうとして投函したものだと判明した。なまじ期待していた分、そのことを知った時の落胆も大きなものとなった。
今回も似たようなものだろう…。律は後日澪に確認するつもりで、その手紙を鞄にしまい込んだ。

そこから二週間後、事態は何の前触れもなく動き出す。

「姉ちゃん。こないだ姉ちゃん宛にラブレター届いてなかった?」

自宅で二人きりになった聡からいきなりそう言われ、律は危うく持っていたドラムスティックを取り落としそうになった。

「なっ!?何でそのことっ!?澪以外誰にも言ってないのにっ!?まさかあの手紙って…!?」
「やっぱり届いてたんだ…。俺じゃないよ、あれ書いたのは俺の友達。ポストに入れたんだけどその後に自分の名前書き忘れたことに気づいて、見たかどうか確かめて欲しいって言われて…」

聡の説明などもはや律には届いていなかった。