「あーあ…。大学最後の夏休みだってのに、ついてねーよな…」

俺は担ぎ込まれた病院のベッドの上で一人溜息をついた。夏場に特に注意することもなく生物を食べてしまったことで食中毒を起こし、緊急入院と相成ってから今日で四日。経過観察のためにベッドの上から動けない生活を送っているが、腹痛や吐き気自体は最初の段階で治まっているため、元気はあるのにやる事がないというなんとも退屈な日々となってしまっている。
本当なら今頃友達と旅行にでも行っているはずだったのに…。自分の不注意と不運を呪いながら俺はまた溜息をつく。
そんな俺の耳に届いたのは、「おはようございまーす」という看護師さんの明るい声だった。しかしその声に聞き覚えはない。昨日まで俺を担当してくれていたのは中年の女性だったが、カーテンの向こうから挨拶をしてくる声は、明らかにもっと若い女性のものだった。
不思議に思っている俺の目の前でカーテンが開かれ、声の主が姿を現わす。
ラベンダーのような色のセミロングの髪、大きな瞳に優しそうな表情、今までこの病院では見たことのないような容姿の女性看護師だった。声相応にかなり若いように見える。

「おはようございますっ。今日からこちらの担当となりました、藤林諒と申しますっ。よろしくお願いします」

どうやら今日付で担当看護師が変わっていたらしい。しかし俺が気にしているのはそんなことではなかった。藤林諒。目の前のこの人に彼氏はいるのだろうか?自分の置かれた状況も忘れそんなことを考えてしまう。
この機会にぜひ仲良くなりたい。しかし実際に声をかけるような度胸など無い…。悶々としている俺に構わず、藤林さんは慣れた手付きで検温などの作業を済ませていく。

「うんっ。問題なさそうですね。体温も脈拍も正常です。それじゃあ次はお昼過ぎに採尿しに来ますので、何かあったらナースコール押してくださいね」

手早いながらもおざなりに扱うことなく、最後まで笑顔を振りまいて去っていった藤林さんに、俺はすっかり見惚れていた。しばらくして思考を取り戻した俺はいの一番にこう思った。

(ツいてる!この病院に入院してよかった…)

朝聞かされていた通り彼女が昼過ぎに採尿にやってくるまで、俺は様々な妄想に耽っていた。時間だけが余っている上、朝から美人看護師に目の保養をしてもらえたとなれば当然かもしれない。もしあの人と仲良くなれたら…。付き合えたら…。結婚してしまったら…。