「どうして、どうして……っ!」

 神の塔――神聖なはずのその地は今や魔物が跋扈している。そういう場所はもうこの世界に珍しくなく、だからこそ自分たち修道女は神に祈りを捧げるのだ。
 修道女マリアはかつて同じ奴隷同士であった二人の青年とその仲間――それも魔物ではじめは驚かされたが気のいい者ばかりなのである――と共に神の塔へ秘宝を手に入れるべく同行していた。塔へ踏み入れるには清らかな乙女の祈りが必要で、マリアならその役目を担えると買ってでたのだ。戦闘員ではないマリアは、みなが魔物と戦うときでも馬車の中で息を潜めていた。もしも魔物に見つかって狙われたら戦えない自分は荷物になってしまう。

 ゆえに、外がやけに静かになり、血の臭いが立ち込め、でも先へ進み始めるわけでもない異常事態になっても、震えていることしかできなかった。

 ほんの少し、ほんの少しだけ幌を開けて外の様子を覗いてみる。
 そこで生きていたのは、エビルプラント――にたにたと笑う芽の生えた豆のような――、それにインスペクター――巨大な目玉から触手が生えている――しかいなかった。

『万が一があったら、ご自身の身を守るのにお使いください』

 そう言って持たせてくれた聖なるナイフ、世界樹の葉。でもこんな絶望的な“万が一”に遭遇したくなかった。

(ああ、どうか、神様、お兄様……)

 生きた人間の臭いのようなものを探っていたのか、ずっと凄惨な現場から離れない魔物がついに馬車に入りこんでくる。
 こんなとき、祈りもナイフも役には立たず、あっという間に馬車の外へ引きずりだされる。

「いやあ! 助けて!」

 仲間たちに叫んでもみな返事はないただ死体になっている。腐ったりする前に世界樹の葉を使えば蘇生できるらしいが、それどころではなかった。
 修道服を無残に破られる。質素な下着を食い破られた。
 肉と骨を食われて激痛が襲ってくることも覚悟したが、なぜか肌には一切の傷を付けてこないのである。