キョロキョロと俺は辺りを窺う。はたから見れば怪しいことこの上ないだろうが、今の俺に平静を装うほどの余裕はない。神経質なほど周囲に視線をめぐらし、ようやく目的のものを手に取る。
よしっ!最初に関門はクリアした。あとは残る第二関門、あの場所にたどり着くだけ…。そう思い一歩踏み出しかけた時だった。

「西片ー。何してるの?」

突如背後から投げかけられた声に、俺の心臓は喉のすぐ後ろくらいまで跳ね上がった。ほぼ反射的に振り向いた先に立っていたのは、家族以外では最も馴染み深い異性、何より今の自分が最も会いたくない存在だった。

「たっ!高木さんっ!?なっ!?何でこんなところにっ!?」

パニックになりかける頭をなんとか立て直し、俺は彼女に問いを返した。

「私?私は参考書買いにきたんだよ。近所の本屋じゃここが一番品揃えいいしね。で、西片は?」

流れるように最初の疑問を繰り返す高木さんだが、俺の方はそれどころではなかった。
まさかこんなところで、よりにもよってこの人に出会ってしまうとは…。俺の学校からはそこそこ歩かないと着かない位置にあるこの大型書店。俺の知り合いに、休日にわざわざここまで来る人などいないと踏んで出向いたというのに…。
内心で焦りまくる俺は、高木さんが俺の背後、後ろ手に隠した一冊の本を覗き込もうとしていることに一瞬気づかなかった。慌てて飛び退った俺の姿は、彼女からはさぞ滑稽に見えたに違いない。

「なっ!何でもないっ!何でもないからっ!」
「えー。なーんか怪しー。気になるなぁ…」

そう言ってなおも俺の背後に視線を向けようとする高木さん。マズい!マズすぎる!今彼女にこの本を見られるのは…。
そんな思いが顔に出たのかわからないが、高木さんは

「まっいいや。私この本買ってくるから、西片も早く会計済ませてきなよ」

と言ったきりさっさとレジの方に歩いて行ってしまった。
た、助かった…。一際大きな溜息をつき、俺はいそいそとレジに向かう。
兎にも角にもこれで終わった…。そう思ったのが甘かった。無事支払いを済ませ出てきた俺を、出口付近で待ち伏せしていた高木さんが呼び止めた。

「西片ー。このあとうち寄ってかない?ちょっと手伝って欲しいことあるんだ」

予想だにしていなかったその提案に俺の思考は一瞬停止し、つい「うん、分かった」と言ってしまった。言い切ってから後悔したがもう遅い。まだ戦いは終わらないのか…。そんな思いを抱え、俺は高木さんと一緒に彼女の家に向かうことになった。