ある街の一角に聳える廃墟、通称『黒曜ランド』。そこを普段根城にしている少女は今、あることに悩まされていた。
顔立ちは文句なく美少女と言えるのだが、そのビジュアルは一般的なものとは少々異なっている。髪の長さはセミロング程度だが、真ん中部分に稲妻のような分け目が入り、頭頂部にはトゲトゲと固められた髪の毛が逆立っている。シルエットで見ればパイナップルのような髪型だ。
更に右目には黒い眼帯と、いささか風変わりな容貌をしているその少女、クローム髑髏の悩み事とは、彼女に近しいある人物のことだった。
彼女はその見た目ながら伝統あるマフィア、『ボンゴレファミリー』のメンバーでもあるのだ。そして彼女同様中学生でありながら、その10代目ボスの座を手にしている少年、沢田綱吉、通称ツナ。彼こそがクロームの悩みの根幹にある存在だった。
と言ってもクロームがツナに不満を抱いているというわけではない。彼女の悩み、それはズバリ『ボスを喜ばせるにはどうしたらいいだろう?』ということだった。

ボンゴレファミリーは長い歴史の中で、武闘派マフィアとしてその名を世界に知らしめてきた。当のツナやクロームもファミリーが危機に瀕したときは、仲間と共に最前線で戦ってきた。クロームはツナに忠誠を誓い、ツナもクロームに確かな信頼を置いていた。
とは言えそれは戦乱の中にあっての話。命がけの戦いの日々を終え、平和な日常を取り戻したことにより、クロームはファミリー内での自分の役割を見失いかけていたのだ。
戦うこと以外でボスの信頼を勝ち取るには…?そんな彼女の疑問が転じていつしか、『ボスを喜ばせたい』へと変わっていったのだった。

「ボス…ボスの好きなものって、何?」

そう独り言をつぶやくクロームだが、答えが帰ってくるわけもない。
どうしたらいいだろう…?そう思った時、クロームはあることを思い出す。以前買った書物に、男のよろこばせ方について書かれたものがあったような…。
すぐさま愛用のカバンを引っ張り出し、そこから一冊の本を取り出す。そしてそこに書かれてある内容を一つ一つ、真剣な眼差しで読み進めていった。

「ふーっ。今日もあっついな〜」

炎天下の屋外を歩くツナはそう口にした時、突然背後から声をかけられた。

「ボス」

不意打ちにびくりと肩を震わせ、反射的にツナが振り返った先には、控えめではあるものの意を決したような表情のクロームが立っていた。何事かと思いツナは彼女に問いかける。