俺は千葉龍之介。例のE組では、スナイパーとして腕をならした男だ。
 だが社会人にもなると、その腕が活かされる機会もない。平凡な社会人だ。
 それでも、E組に在籍していた縁は、俺にさまざまなものを与えてくれた。
 中でも特筆すべきは、速水凛香とのつながりだろう。
 俺と彼女が結ばれた時のことを書こう――。

 社会人なりたての頃、凛香が連絡してきて、会うことになった。
 彼女と会うのは久しぶりだった。
 俺の住んでいるところは飯もうまいし見所もあるし、彼女に取ってもかなり満足のいく観光ができたと思う。車で来てくれた凛香が足がわりになってくれたので助かった。口下手な俺だが、しっかりと感謝を伝えた。
 夕飯を食べたところで、じゃあ解散かな、というと彼女が聞いてきた。
「今夜はどこに泊まるの?」
「駅近くの○○ホテル」
「あそこか。よし、じゃあ、あたしもそこにする」
 一瞬耳を疑う。いやいや家があるだろ、と突っ込む前に彼女は話し続けた。
「知り合いってことで隣の部屋にしてくれないかな」
「いや、意味わからんけど……」
「いいじゃんいいじゃん、私だって地元のホテル泊まってみたい」
 あっけらかんな様子だから、まあ本当にそうなのかも、とその時は思った。
「まあ、行くか……」
 同室じゃないなら別にいいか、と気を取り直し、ホテルに向かった。彼女のチェックインを済ますと、それぞれの部屋に向かった。
 俺はお風呂に入ってのんびりテレビを見ていたが、突然着信が鳴って驚く。
 出てみると彼女からだった。
「ねえ、今何してるの? よかったら一緒に映画見ない?」
 タイトルを聞くとちょうど俺も見ていたチャンネルだった。土産に買った菓子もあるからと、こっちの部屋に呼ぶことにした。
 ノックが聞こえたので、ドアを開ける。
 突然、がばっと浴衣姿の彼女が抱きついてきた。
「?」
 あまりの事態にびっくりしつつ、一旦部屋に入る俺たち。
 状況が掴めず、一応抱きしめてはいたが、それ以上のことはできずに固まっていた。
「ねえ、今日、どうして会ってくれたの?」
「え、いや、まあ、友達だし……?」
 そう答えると、わあっと彼女は泣き出してしまった。
 どうも彼女は、俺に気があったらしく、今回の観光も無理やりにでもデートをしようということだったらしい。
 気持ちを確かめようとしたがタイミングがなくて、おまけに俺はあっさりとホテルに帰ろうとするから焦ってしまった。無理があるのはわかっていたが、一緒のホテルに泊まろうと決めたらしい。