俺――虎杖悠仁の初体験は高1で、しかも高専の校内でだった。
 その日、俺は最後まで残って呪術の勉強をしていた。
 わりと熱心な方だったと思う。放課後遅い時間まで残ることもしばしばだった。
 それでも、俺に負けず劣らず、なお勉強熱心な奴がいた。
 それが釘崎野薔薇だった。
 同じ学年の彼女は、元気で明るく、強気でちょっとガラが悪いところもあるけれど、練習にもかなり力を入れてる。
 俺は野薔薇と放課後に一緒になることが多かった。二人きりになる時間が嫌いではなかった。
「そろそろ日が暮れるぞ」
「わかった。ありがとう」
 興奮するとガラが悪くなる彼女だが、この「ありがとう」の笑顔を見るとたまらなくなる。
 やれやれと俺はその様子を見ていた。彼女の修業を見ているとこちらも勉強になる。
 二人きりの教室で話しながら片付けて、そのまま途中まで一緒に帰るのが習慣みたいになってた。
 その日もいつも通りだと思っていたが、様子が違った。
「あ、雨降ってきた」
 野薔薇が言うので、窓の外を見た。夏も近い、夕立みたいな土砂降りだった。
「傘ある?」
 彼女に聞くと、カバンをごそごそして小さい折り畳み傘を取り出した。
「ちっちゃい折り畳みならあるよ。でも、すぐ止みそうじゃない?」
「じゃあ、待つか」
「うん」
 野薔薇は頷いた。
 俺たちは教室の椅子に座って、今日の授業はどうだったとかの話をした。
「そういえば、さ。悠仁って好きな人いる?」
「何、急に」
「ほら、真希さんとか……」
 真希さんっていうのは、二年生の先輩呪術師だった。学園内の呪術師の中ではかなり美人な方だ。
 修行を付けてもらったことも多く、俺とはちょっと噂になったこともあった。
「噂のこと? ないって。ただの先輩後輩」
「恵も言ってたよ、よく指導してもらってるみたいだし」
「練習だよ。それだけ」
「付き合ってたりしないの?」
「しない」
 なんとなく緊張しながら、そこは本当のことなので正直に答えておいた。
 だが野薔薇はまだ納得いかないようで、話し続けた。
「真希さん、素敵な人だよな」
「まあ、他の奴らもそういうよね」
「一緒にいると楽しそうじゃん」
「そりゃいい人だし、つまんない顔するのもなんだし」
 ちょっとしつこいな、と思っていたら、彼女はとんでもないことを聞いてきた。
「キスしたの?」
「は?」
「だから、二人きりのときに……」
「俺を何だと思ってんの!」
 それじゃただのキス魔じゃねーか、とさすがに強く言い返すと、彼女はごめんと謝ってきた。