彼が彼女の存在に気づいて視線を向けるより、彼女が彼に声をかける方が僅かに早かった。

「ねえねえ…。今日の放課後空いてる?ちょっと付き合って欲しいんだけど…」

彼女、笹川京子ははっきり美少女と言って良い部類の女子高校生だ。その上明るくて友達も多く、誰とも打ち解けられると言う意味で魅力に溢れた人物だと言えるだろう。いわゆるギャルと言うべき人種、それもかなり度合いの激しい点が玉に瑕だが…。
一方彼の方はさほど普段からテンションの高い方ではない、いわゆる陰キャと呼ばれる部類だった。更には友達も少なくオタクと言う点で、京子とはまさに対極にいると言っていい人種だった。
高校に入学してから一学期終了目前の今日に至るまで、同じクラスの一員として過ごしてきた。しかし実際は会話をしたことなどない。彼自身、京子のことを派手すぎて苦手だと思っていたし、向こうは自分のことなど眼中にも入れていないとばかり思っていた。
だからある日の昼休み、偶然廊下に二人っきりの状態で、京子の方から声をかけてきたのは本当に意外だった。
少なからず動揺した彼だが、その事を悟らせまいと懸命に隠して京子に返答する。

「あ…うん、空いてるけど…。え?何するの?」
「うん…ちょっと頼みたいことあって。どう?付き合ってくれる?」
「…分かった。いいよ」
「本当!?ありがとう!じゃあ放課後、教室で待っててね!」

それだけ言って京子はさっさと歩いて行ってしまう。残された彼の方はまだ思考が追いつかず、しばらくの間その場に立ち尽くすしかなかった。

その日の放課後、彼は京子から言われた通り授業後の教室で待っていた。下校していく生徒達がチラチラと自分の方を見ていく中、ひたすら相手を待ち続けるのは正直辛かった。
それでも辛抱の甲斐あって、しばらく待ち続けると彼一人の教室に京子が入ってきた。正直すっぽかされることも想定していたので、宣言通り彼女が来たのは意外だった。

「ごめんごめん、待った?」
「あ…ううん。大丈夫」

再会の挨拶を済ませた後、彼の方から本題に入る。

「それで…頼みたいことって?」
「うん…あのね」

京子はそこで一度言葉を切り、呼吸を整えるようにしてから言った。

「今…彼女いないよね?私と付き合わない?前から結構いいなって思ってて…」

京子に呼び出された時から、彼は何を言われるのかと不安を抱き、色々なパターンを想定していた。しかしこれは全く予想外のパターンだった。いいと思ってた?付き合う?それらの言葉の意味を把握するのにしばらくかかってしまう。