「お注射よっ!」

ナース服に身を包んだ彼女、お注射天使リリーがそう言った直後、患者の腕にあたる部分にプスリと注射器が差し込まれた。患者の方は痛がったり暴れたりすることもなく、じっとしたまま注射が終わるのを待っている。
やがて注射器の中の薬が注入され腕から注射器が抜き取られると、患者はホッとした様子で立ち上がり、そのまま帰っていった。

「お大事に〜」

リリーはそういって患者を送り出す。一仕事終わってふうっと一息つきたくなった。
彼女が暮らすデュエルモンスターズの精霊界ではここ最近、新型ウイルスによる風邪に似た症状が流行している。各地の病院は入院やワクチン接種などの対応に追われ、忙しい日々を送っていた。
この日のリリーも外部からの患者にワクチンを接種してもらうため、看護師として業務に臨んでいた。とはいえここは精霊界。医師や看護師が人間でないならば患者もまた然り。彼女が働く病院を訪れるのは異形のモンスターばかりだった。勿論エルフやピクシーといった、天使であるリリーに近い見た目の患者もいるが、中には身長が3mをゆうに超える者などもいて、そんな相手が患者となっては流石に面食らってしまう。
尤もこれはただ彼女の気持ちの問題であり、業務については相手が誰であろうと支障はない。というのも彼女が普段携帯している注射器というは特別製で、彼女の意思によってそのサイズを自在に変えることができるのだ。実際さっきまで相手にしていた患者は天を衝くんばかりの大男だったため、彼女は注射器のサイズを変化させ、自身の身長の二倍近い大きさにした上でワクチンを打っていた。
人外の者達を相手にする仕事とあって、日々感じる疲れも相当なものになる。休めるときに休んでおかないと体がもたない。そう考えてリリーは業務の間の小休止に入ろうと思い至った。頭と体を休め次の患者の対応に備える。しばらくそうして過ごしていた彼女の耳に、不意に「すみませ〜ん」という声が届いた。
突然のことだったがリリーは慌てることもなく、「は〜い」と返事をして窓口に向かった。

「お待たせしました〜」

そう言った彼女が顔を上げると、そこには一人の若い男性が立っていた。肌ツヤもあり若々しいが、どうも顔色が悪い。この場所を訪れたことから見ても、やはり体調が良くないのだろうか…?
そんなことを考えつつも、リリーは目の前の男性に話を聞き始めた。

「こんにちは。今日はどうされましたか?」