「あ…あのっ…この本の貸し出し…お願いします」
「ありがとうございます。…あら、また来てくれたんですね」

僕が最近足繁く通っている町の図書館。受付席の向こうからそう言って笑いかけてくるその人に、僕はしばし見惚れてしまった。彼女の笑顔に何度心を洗われたか分からない。

「は…はい。またよろしくお願いします」
「はい。それじゃあ手続きしますので、少々待ってくださいね」

彼女、宮沢有紀寧さんはそう言って、僕に再び笑顔を向けた。

初めてこの図書館に足を運んだ時、欲しい本が見つからず途方に暮れていた僕を助けてくれたのが彼女だった。

「何かお探しですか?」

そう言ってから僕の探していた本をすぐに見つけ出し、貸出用の受付まで案内してくれた。その優しい笑顔と人当たりの良さ、優雅な立ち振る舞いに僕はすっかり心を奪われてしまった。以来彼女に会いたくてこの図書館に何度も通うようになったというわけだ。
繰り返し顔を合わせる度に少しずつ身の上話をするようになり、彼女が高校生の時に学校の資料室で活動していたこと、卒業後に地元の店で働き、その後この図書館の司書として働き始めたことなどを知った。

「はい、どうぞ。返却期間は二週間後ですのでご注意ください」

彼女とのこれまでの日々を思い返していた僕に、彼女からそう声がかけられる。ハッとした僕は慌てて彼女から本を受け取った。
今日も彼女と話せた。そんな喜びを噛み締めながら、最後にもう一度その顔を見ようと振り返る。すると彼女が席を立ち、奥に入ろうとしていたところだった。ただしその隣には見知らぬ男性が一人立っている。
その男性の顔自体は見たことがある。僕と同じように図書館を訪れていた人の一人だ。とはいえ僕は直接話したことなどないし、無論彼女と仲が良いなどという話も聞いたことがない。そんな相手と有紀寧さんが連れ立って受付の奥に引っ込んでいったのだから、不審に思うのも当然だろう。図書館では本や資料の取り寄せも行なっているが、それに関する用事だろうか…。色々な推測が僕の脳内を巡ったが結局答えは出ないまま、その日は図書館を去ることにした。

数日後、これまでのように図書館を訪れた僕。この日は有紀寧さんと会うこと以外にも目的があった。
向かう道中当然のように彼女のことを考えていた僕だが、そう言えばと思い当たったことがあった。これまでにも有紀寧さんの顔を見るべく図書館を訪れ、彼女の姿を探したことがあった。