「ぷはーっ! 人間の作るふかふかベッド最高ー!」

 かつては大きな宿屋を経営していた父親の一人娘、現在は旅人の妻。ただしただの旅人ではなくて、魔物使い。

「喜んでくれて嬉しいよ」
「スラりんやゲレゲレたちはまた街の外だし、朝になったら早く迎えにいってあげないとね」

 ビアンカが愛する夫を、感情の細部は違えども愛してくれる仲間たちは人間に危害を与えないと約束してくれている。その危害にはいたずらに驚かせ怖がらせることも含まれているから、あの子たちは人間のビアンカたちが柔らかいベッドで休む間、外に停めてある馬車や船の番をしてくれている。

「いつか、心の優しい魔物たちがもっと増えて、人間とも仲良く暮らせるような世界を見たいんだ」

 子供時代で似たようなことを言われたときは馬鹿な夢物語だと思った。宿屋の娘であっても、ときおり街に魔物が侵入しそうになるたびに大人たちは全力で追い払いにかかるのを見ていた。それで大怪我――もちろん最悪の事態も――する人もいた。

「あなたが王様になったらきっとできちゃうかもしれないね。一番えらい人が示せばみんな分かってくれるよ」
「お世辞でも後押ししてくれると元気づけられる」
「あら、理解がなかったら魔物使いの妻なんてやらないわ!」

 くすくすと笑う。
 人間の言葉を喋れる仲間から、田舎の村で畑を荒らしていたゲレゲレを引き取った際の誤解にまつわる事件のあらましは聞いていた。人間の同行者がいない旅路で差別されることになった出来事で心を痛める姿は簡単に想像できる。

「何? 引け目とかあるんだったら、夫として妻を喜ばせてみてよ」

 妖艶に笑う。
 船の移動中にこっそりと口淫をしたときもあったが、仲間たちと同じ場所で寝る手前、それ以上のことはそうそうできるものでなかった。今は人間たちの街に二人だけで心身を休める時間。