『愛する娘、クラリスへ
21度目の誕生日、おめでとう。娘の成長を、心から喜ばしく思う。
旅はどうだろう?元気にやっているかい?
もし良ければなのだが、1度顔を見せに来てはくれないだろうか?
日頃の感謝も直接伝えたいから、団のみんなと一緒に。
良い返事を期待しています。
父ハロルド』
「って手紙が来てるんだけど、もう結構島から離れちゃってるし、ウチ1人で行こうかなと思ってて」
甲板で待っていたクラリスから手紙を渡されて、読み終わると彼女は申し訳なさそうに申し出た。
「大丈夫だよ、一緒に行こう」
そう言うとパアッといつもの笑顔に戻って、鼻歌を奏でながら艇内に向かって行った。
「あ、流石に全員は迷惑だろうから呼ぶ人は選んでね」
「わかってるよ~☆」
鼻歌が遠ざかっていくのを確認して、団長としてはこれが正解なんだと自分に言い聞かせる。
旅に出てから4年、イスタルシアに近付いているのかさえ、正直わからない。
しかしわからないからこそ、こうした申し出には全て応えたいという気持ちもある。
その結果が前進の妨げになっているのではないか?と言われることもあるが、それでも団員を大切にしたいのだ。
これから先、必ずしも全員が無事でいられるとも、限らないのだから。
クラリスからの申し出から2週間後、ボクたちは彼女の故郷にきていた。ついでにザンクティンゼルにも寄る話が出ていて、そこまでの航路も大体2週間程度だとラカムさんが言っていた。
4年にも及ぶ旅が、たった1ヶ月で引き返せるものだと思うと、なんだか笑えてしまう。
「ここがししょーの部屋でー、こっちはフィーナちゃんの部屋でー」
クラリスは招待した団員に宿泊する部屋を案内していて、ボクはただ黙ってその後ろを着いていった。
「団長の部屋はこっちだよー」
最後の1人となり、クラリスと2人で自分の泊まる部屋へと向かう。
しかしその道中
「あれ?」
クラリスが不思議そうな顔をしながら扉を見た。
「どうしたの?」
「うーん、こんなところに扉なんてあったかなぁ」
詳しく聞いてみると、部屋と部屋の間隔的にも存在し得ない扉だと言う。
星晶獣の仕業とも考えにくいが、仮にそうだったとしたら旅のヒントになるかもしれない。
「どーしよ、ママに聞いてみ……あれ?団長?」
ボクは旅の成果がでない焦りから、普段はしないであろう判断と行動をした。
星晶獣の気配があれば、ルリアはすぐに言ってくるはずなのに、全く気にもとめず、無計画に扉を開いてしまったのだ。
そして
「いててて……」
「あたた~……あ、団長ごめん!」
クラリスもろとも扉に吸い込まれてしまい、仲良く暗い部屋へと落とされた。
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