大きなリュックにひょこひょこと上下に動くツインテール。

間違いない、八九寺真宵だ。

僕はクラウチングスタートの姿勢をとって、鳴ってなどいない空砲の音を聴くと一目散に彼女の元へと駆けた。

「うぉぉおお!はーちーくーぼぉっ!?」

あと少しで手が届く!という絶妙なタイミングで右の足と左の足が喧嘩してしまい、盛大にヘッドスライディングをかます。

「ひゃんっ!?」

普段なら呆れて僕をジトッとした目で見てくる彼女だが、今日はスカートの裾を掴んで思い切り下に伸ばし、まるで何かを隠すように距離を取っていた。

「いててて……はっ!お、おう、八九寺。息災かね?」

「近付かないでください!あなたの事がき……きら……」

あなたの事が嫌いです。というのは、彼女が迷い牛という怪異だった頃に、自分が見える人を遠ざけるために言っていた言葉である。

なるほど、初々しいファーストコンタクトを再現しようと言うわけだな?と思ったけれど、何故だか言葉に詰まっていた。

「ん?どうした?そこは自分の決めゼリフなのだから、別に遠慮なく言ってくれてもいいんだぞ」

「違うんですあらららさん、そんなんじゃ……」

「顔面から地面に挑んだ僕を見て驚いたからって感動詞で僕を呼ぶんじゃない。僕の名前は阿良々木だ」

「失礼、噛みました」

「違う、わざとだ……」

「……わざとだったらなんですか?」

「え?」

いつものやり取りに戻っていつも通り楽しくおバカな話をして、いつも通りどこに帰るのかもわからない彼女を見送ってそのまま帰路へと向かうつもりが、彼女は何故だか冷ややかな視線を僕に向けながらニンマリと口角を上げた。

「わざとだったら、なんですか?」

「え、い、いや」

「私の、阿良々木さんとおしゃべりしたいなーって気持ちの裏返しなわけですよ?なんで寛容になれないんですかー?」

「う、そんなストレートに言われると」

照れてしまう。
なんだこの可愛くも憎たらしい存在は。なんだかドギマギしてしまう。

「ところで阿良々木さん、これから時間あるならちょっと行きたいところあるんですけど付いてきてもらってもよろしいですか?」

「お、おう」

右手首に巻いた腕時計を見て時間に余裕があることを確認し、八九寺と並んで他愛もない会話をしながら、彼女と共に道を歩く。

時折訪れる静寂に混ざって聞こえたモーター音が、一体何なのか考えもせずに。